虚無障害

絶対帰還」という本を読みました.

どんな内容かというと,2003年1月のスペースシャトルコロンビア墜落の結果,宇宙ステーションから帰る足をうしなった宇宙飛行士の面々の話.

つい先日,コロンビア号墜落の際,交信途絶から少なくとも1分程度乗組員は生存していたとの分析結果がNASAから公開されたと報道されていましたが,それの裏には,墜落の事実を宇宙空間で知った人々もいたということがあります.

この手の本では,ロシア宇宙ステーションミールが火災を起こした顛末を記した「ドラゴンフライ」という本があります.そのようなドラスティックな展開が閉鎖空間で起きている訳ではないですが,地球と宇宙とを隔てる絶望的な距離を感じさせます.

思いつくのは,宇宙事業というのは,どのような事業であるのか?ということ.

ロケット一基を打ち上げるのにかかる費用は,国やペイロード(積載質量)によってまちまちですが,大雑把には100億円程度といえる.ロケットは基本的には「使い捨て」で「いきっぱなし」なので,積み荷を放出した後は,まるまるゴミになる.

ロケットは地球の資源を集めて,製錬し,材料として加工し,組み立てて運搬し,点火して制御する.その結果,得られるのは衛星ですが,そのほかは,大気圏突入するなどして,燃えるか海に水没する.
このように考えると,ロケットは地球資源という乱雑に散らばった物質を,人間の能力によって秩序付け,システムとして構築し,そしてそれをまたチリとして地球に還す営みであるといえます.

それでは,ロケット打ち上げによって得られる衛星の主な目的はなんであろうか?

わかりやすいのは,携帯電話にも入っているGPS,テレビの電波や電話をダウンリンクする通信衛星,それに地球の状態を観測する監視衛星(スパイ衛星も含みますね).
結局これらは何を扱っているかというと,すべてが「情報」を扱っている.

当然ながら,現在,物質を衛星から降らせたりすることはできない.虚空の宇宙から物質を取り出すことがそもそもできないし,宇宙にあげて降らすことを真剣に考えるようなのは,核爆弾ぐらいのモノだと思う.
エネルギーは,例えば宇宙で発電して地球に送るという試みがなされているが,もそっと地球の圏内でエネルギーを取り出した方が効率的でないかい?という疑問も生じる.

実験レベルでの無重量空間,安価な真空空間という価値は否めないが,それでも現状では実験の域をでないだろう.

よって,少なくとも民生にかんする宇宙に関する事業というのは,すべからく「情報」に関連した産業につながるものと考えることができる.

ここまで考えると,宇宙事業というのは,ロケットという巨大なメカニズムの固まり(というよりも,むしろ,可燃物質の巨大なタンク)を眼前にみてそういうもんだと合点してしまうが,それよりもなによりも,その目的である情報へ,すべての人の努力や資源が投入されているといえる.
このことへの自覚と人々のコンセンサスを得ることが,宇宙産業を考える上で重要であろうと思う.
今現在,私たちが情報にどれくらいの価値を見いだしているのか,そのなかで,宇宙でなければ得られない情報はどれくらいあり,どれくらい希少であるかを意識することが,この業界の発展のためのは重要だろう.

宇宙ステーションに取り残された面々は,どのような価値を生み出したのか?という問いをたてると,それは,宇宙空間という,何にもない虚空が,絶対的なバリアとなるということをまざまざ知らしめる,人が宇宙に対して持つ畏怖の経験,それが最大の価値であろう.

何もないことが絶対のバリア,これって人間関係にもつながりますね〜.

絶対帰還。

ドラゴンフライ―ミール宇宙ステーション・悪夢の真実〈上〉